コウイチ・ヤングの冒険

君と、あと君と、それから君にも捧ぐ

赤ちゃんという何もできない不思議な生きもの

そう、子供が生まれたんだ。男の子で、おれにはよくわからなかったんだけど、けっこうみんなから、おれによく似てるって言われる。あんまり苦労はしてほしくないから、できればおれより妻に似てほしいと思ってたんだけどね。

それにしても赤ちゃんってのはたいしたやつだ。このイカレた世界に手ぶらで、しかも裸で登場って無謀が過ぎるぞ。そして彼は本当になんにもできない。寝返りさえ打てない。実行できるコマンドは「泣く」しかない。武器といったら「かわいさ」だけ!

そんな赤ちゃんの世話はやっぱり大変なんだけど、それは予想をはるかに超えるものだった。だって赤ちゃんの手のかかりようについて、いまひとつ周知されてないじゃない。おれの行ってた学校の教科書にも、週刊誌の袋とじにもそんなことは載ってなかったから、いままで知る機会がなかったんだ。

たとえば育児のつらさについて、こと細かく歌ったヒット曲があったら、だいぶ違ったと思うんだよね。昼夜を問わずの授乳で何日もずっと睡眠不足とか、変なモードに入っちゃったら恐ろしくでかい声で延々と泣き続けることなどを歌い上げてくれる、裸足の歌姫がもしいたならね。まあ、そんなつらく苦しい曲はおれは買わないけど。

うちの子の場合、とにかく寝かすのが大変で。なんと眠るのすらひとりじゃできないってんだからしびれるね。授乳を終え布団に倒れこむ寸前の妻から子を受け取り、抱いて揺らして子守唄、そして最後は祈り、なんとか眠らせてあげないと、どんどん疲れて機嫌が悪くなり、泣きわめき、それをどうにかなだめすかし、1時間2時間かかってやっと寝る。

それからずっと我慢していたトイレに行って、一息ついて洗面台で念入りに手を洗っていると、もう寝室から泣き声が。大きなため息をつきながら、目の前の鏡を見てやっと気づいたよ。どうやらおれの顔は、息子にとてもよく似ているようなんだ。